編集デスク ゲーム攻略ライターの桐谷シンジです。今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、話題の新作レースシム『Project Motor Racing』の購入を検討しつつも、コントローラー(パッド)での操作性に不安を感じていることと思います。
「本格的なシミュレーターはハンコン(ハンドルコントローラー)がないと楽しめないのではないか?」「高い周辺機器を買う前に、手持ちのパッドで十分な体験ができるのか知りたい」そんな悩みを抱えているのではないでしょうか。
この記事を読み終える頃には、本作がパッド勢にとってどのような体験をもたらすのか、その疑問が解決しているはずです。
- 本作はコントローラー操作に特化した驚異的な調整が施されている
- アシスト全オフでも指先の技術でねじ伏せる快感が味わえる
- 逆にハンコンよりもパッドの方が完成度が高い可能性すらある
- バグや未完成な部分は多いが走る楽しさは本物である
それでは解説していきます。
【Project Motor Racing】コントローラー・パッドの操作性を徹底検証
まず結論から申し上げましょう。このゲーム、コントローラー(ゲームパッド)で遊ぶことを強くおすすめします。
むしろ、現時点でのビルドにおいては、ハンコンよりもパッドの方が開発側の熱量が注がれているのではないかと感じるほど、その完成度は突出しています。
これまで数多のレースシムをプレイしてきましたが、「パッドで本格的な挙動を楽しめる」と謳うゲームの多くは、強力なステアリング補正によって「誰が操作しても同じ走りになる」というジレンマを抱えていました。
しかし本作は違います。
驚くべきことに、シミュレーターとしての厳格な物理挙動を維持したまま、指先のスティック操作だけでタイヤのグリップ限界を感じ取ることができるのです。
従来のレースシムとの決定的な違い
従来の「アセットコルサ」や「rFactor 2」といった硬派なシミュレーターをパッドで遊んだ経験がある方は、その難易度の高さに絶望したことがあるかもしれません。
繊細なステアリング操作が求められる場面で、スティックの短いストロークでは微調整が効かず、車体が左右に振られてスピンしてしまう。
これがパッド勢の常識でした。
しかし、『Project Motor Racing』におけるパッド操作は、補正の入り方が絶妙です。
補正自体は確実に入っているのですが、プレイヤーの操作に過度に介入してくる感覚がありません。
あくまで「プレイヤーが入力した意思」を尊重しつつ、物理的に破綻しないギリギリのラインで車体を安定させてくれる。
まるで自分の運転技術が向上したかのような錯覚を覚えさせてくれる、魔法のようなフィーリングです。
指先で感じる「タイヤの粘り」
本作の物理エンジン、特にタイヤモデルの挙動は特筆に値します。
グリップを失って滑り出した瞬間、唐突にコントロール不能になるのではなく、「滑りながらも粘る」という感覚が強烈に伝わってきます。
この「粘り」の領域で、スティックを微妙に倒し込み、カウンターを当て、アクセルワークで車体の向きを変えていく。
この一連の操作が、パッドの振動と挙動を通じてリニアにリンクします。
ドライバーがステアリングを腕でねじ伏せるような感覚を、親指一本で再現できるのです。
これは単なるゲーム的な挙動ではなく、プロのレーシングドライバーが感じている「限界域での対話」を、パッドというデバイスに落とし込んだ画期的な調整と言えるでしょう。
初心者設定での走行フィールと難易度
では、具体的なシチュエーションごとに、その操作感を深掘りしていきましょう。
まずは、レースゲームに慣れていない方を想定した「アシスト全オン(AI強度20)」での走行テストの結果です。
使用した車両は日産「Z GT4」、コースは高速サーキットの代名詞「スパ・フランコルシャン」です。
アシスト有りでも「本格的」な手応え
「初心者向け設定」と聞くと、レールの上を走るような簡単な挙動を想像するかもしれません。
しかし本作の場合、アシストを最大にしても、その難易度は決して低くありません。
むしろ「本格的すぎて難しい」と感じるレベルです。
スタート直後の1コーナー「ラ・スルス」。
ここでブレーキングのタイミングを誤れば、アシストが効いていても曲がりきれません。
しかし、適切な減速を行い、ステアリングを切った瞬間のノーズの入り方は爽快そのものです。
そしてスパ最大の名物コーナー「オー・ルージュ」から「ラディオン」への駆け上がり。
急勾配を登りながら左右に切り返すこのセクションでも、パッド操作による微修正がしっかりと車体に反映されます。
補正を感じさせない自然な挙動
特筆すべきは、やはりステアリング補正の「透明感」です。
通常、アシスト強めの設定では、機械が勝手にハンドルを切っているような違和感を覚えるものですが、本作ではそれが皆無です。
「自分が操作している」という主体性を保ちつつ、裏側で黒子が支えてくれているような感覚。
結果として、初心者設定であっても「車を運転している」という没入感が損なわれません。
ただし、裏を返せば「適当に走っても速く走れるわけではない」ということです。
常に路面の状況を感じ取り、カウンターを当て、修正舵を入れる必要があります。
これは「初心者向け」というラベルを貼るには少々ハードコアすぎるかもしれませんが、レースゲームの奥深さを知る入り口としては最高の教材になるでしょう。
中級者設定:NSX GT3で見える真価
続いて、アシストを全てオフにし、AIの強さを60(中級レベル)に引き上げた状態での検証です。
使用車両はホンダ(アキュラ)「NSX GT3 Evo」、舞台は過酷な「ニュルブルクリンク北コース(ノルドシュライフェ)」です。
GT3マシンこそが本作の華
GT3カテゴリは、世界中のレースシムファンが最も熱狂するクラスであり、各メーカーの技術の粋を集めたスーパーカーたちが競演します。
このNSX GT3 Evoをパッドで走らせた瞬間、本作のポテンシャルの高さに改めて驚かされました。
先ほどのZ GT4と比較しても、マシンの反応速度、剛性感、そして路面に吸い付くようなダウンフォースの効き方が一段階上です。
アシスト全オフであるため、挙動の乱れはダイレクトに挙動不能へと繋がります。
しかし、ここでも「滑るけれど粘る」というタイヤモデルが活きてきます。
ニュルの狭いコース幅の中で、高速コーナーをクリアしていく際、タイヤが悲鳴を上げながらも路面を掴み続ける感覚。
これをスティック操作で制御しきった時の快感は、言葉にし難いものがあります。
荷重移動とスリップアングル
この設定で速く走るための鍵は「荷重移動」です。
コーナーの手前でしっかりとブレーキを残し、フロントタイヤに荷重を乗せる。
そこを起点にして、車体をエイペックス(コーナーの頂点)に向けて放り込む。
この一連の動作において、スティック操作の「深さ」と「速さ」が重要になります。
一見難しそうに聞こえますが、本作のパッド調整は非常に優秀であるため、ある程度大雑把にステアリングを切っても、車体側が「スリップアングル(タイヤの進行方向と実際の向きのズレ)」を許容してくれます。
意図的にリアを少し流し、スライドさせながらマシンの向きを変えていく。
この実車さながらのテクニックが、特別な設定なしにパッドで再現できるのです。
「難しい車を自分の腕でねじ伏せている」という全能感。
これこそがレースシムの醍醐味であり、本作はそれを高いレベルで実現しています。
路面の凹凸と縁石の処理
ニュルブルクリンクは路面のうねりや縁石の処理が非常にシビアなコースです。
本作の物理エンジンは、縁石の種類による挙動変化も的確に再現しています。
平らな縁石であれば積極的に踏んでいけますが、角度のついた高い縁石(通称「ソーセージカーブ」など)に不用意に乗ると、車体は大きく弾かれます。
パッドの振動機能を通じて、タイヤが路面から離れた瞬間や、サスペンションが底付きした衝撃が伝わってくるため、視覚情報だけでなく触覚でも路面状況を把握できます。
ただし、弾かれたからといって即スピンするわけではありません。
アクセルを抜き、ステアリングを戻すことでリカバリーが可能です。
この「厳しさ」と「優しさ」のバランス調整が、中級者以上のプレイヤーにとって非常に心地よいスパイスとなっています。
上級者設定:LMDhクラスの洗礼
最後に、最高峰のプロトタイプカーであるLMDhクラス「ARX-06」を使用し、デイトナ・インターナショナル・スピードウェイにて検証を行いました。
設定はアシスト全オフ、AI強度は90(上級者向け)です。
異次元のスピードとブレーキングの難関
LMDhクラスのマシンは、GT3とは比較にならない速度域で走行します。
特にデイトナのバンクから突入する第1コーナーへのブレーキングは、まさに鬼門です。
ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が搭載されていないこの車両では、ブレーキトリガーを力一杯引くだけではタイヤがロックし、そのまま直進して壁に激突します。
ここで求められるのが、繊細な「リリースコントロール」です。
最大制動力で減速を開始し、タイヤがロックする寸前のギリギリの領域を探りながら、徐々にブレーキを緩めていく。
このプロドライバー級の操作を、パッドのトリガーで行う必要があります。
正直に申し上げますと、これは極めて難しいです。
しかし、理不尽な難しさではありません。
成功した時の「止まる!」という感覚と、そこからノーズがインに向く瞬間の一体感は、他のゲームでは味わえない中毒性があります。
初心者お断りだが挑戦する価値はある
この設定での挙動は、まさにシミュレーターそのものです。
不用意なステアリング操作は即スピンを招き、ラフなアクセルワークはトラクションを失わせます。
しかし、このヒリヒリするような緊張感こそが、本作が目指しているリアリティの到達点なのでしょう。
特にアプローチ(コーナーへの進入)において、ブレーキを残しつつ車体を滑らせるように侵入し、絶妙なスリップアングルを維持したまま立ち上がる。
この一連の流れが決まった時、あなたは自分がトップドライバーになったかのような高揚感を得られるはずです。
LMDhクラスの致命的な問題点
ただし、このクラスに関しては、現時点で明確な未完成要素が存在します。
それはハイブリッドシステムの「デプロイ(バッテリー放出)」操作です。
実車同様、モーターアシストを調整する機能が本来はあるはずですが、現在のパッド設定にはこのキー割り当てが存在しません。
メニュー画面からも操作できず、プレイヤーはデプロイを制御できない状態にあります。
一方で、AIのライバル車たちはこの機能をフル活用して加速していくため、ストレートスピードで太刀打ちできない場面が多々あります。
これは明らかに開発段階での調整不足、あるいはバグと言えるでしょう。
将来的なアップデートでの修正、あるいは「オートデプロイ」のようなアシスト機能の実装が待たれるところです。
本作の「光」と「影」
ここまでの検証を通じて、本作が持つ強烈な魅力と、目を背けられない課題点が浮き彫りになりました。
購入を検討されている方のために、その両面を包み隠さず整理します。
「光」:パッド勢にとっての新たな希望
最大の魅力は、やはり「パッドで遊べる本格シム」としての完成度の高さです。
- 絶妙な補正バランス:プレイヤーの意思を阻害せず、かつ破綻させない魔法の味付け。
- タイヤの接地感:滑り出しからグリップ回復までの過程が手に取るようにわかる。
- 技術介入度の高さ:上手くなればなるほど速く走れる、練習のしがいがある挙動。
これまで「パッドだから」という理由で本格的なレースシムを敬遠していた方にとって、本作はまさに福音となり得るタイトルです。
高価なハンコンを導入せずとも、デスクに座ったまま、あるいはソファに寝転がりながら、世界最高峰のレース体験が可能になるのです。
「影」:未完成ゆえの粗削りな部分
一方で、本作が「製品版」として手放しで褒められる状態かと言うと、疑問符がつきます。
- AIの挙動:非常に攻撃的で、プレイヤーラインを無視して突っ込んでくることが多い。
- 最適化不足:グラフィックの質に対して処理が重く、ハイエンドPCでも出走台数を絞る必要がある(PS5版も台数制限ありとの情報も)。
- バグの多さ:前述のLMDhのデプロイ問題をはじめ、細かな不具合が散見される。
- コンテンツ不足:シングルレースの挙動確認がメインで、キャリアモードや充実したゲーム体験はこれからの課題。
「時間とお金が足りていない」
プレイしていて、そんな開発現場の悲鳴が聞こえてきそうな作りです。
技術的なポテンシャルや志の高さは素晴らしいものの、製品としてパッケージングするまでのリソースが不足している印象を受けます。
総評:あなたは『Project Motor Racing』を買うべきか?
最終的な判断を下すために、どのようなプレイヤーに本作が適しているかをまとめます。
おすすめできる人
- パッドで本格シムを楽しみたい人 これが最大のターゲット層です。 理不尽な難しさは排除しつつ、シミュレーターとしての奥深さを味わいたいなら、これ以上の選択肢は現状ないかもしれません。
- 過去のシムに挫折した人 「アセットコルサ」などでまともに走れず、心を折られた経験がある方。 本作なら、あの時の悔しさを晴らし、車を操る楽しさを再発見できる可能性があります。
- 「原石」を愛せる人 未完成な部分を含めて、今後のアップデートでゲームが育っていく過程を楽しめる方。 開発チームを応援したいという気持ちを持てる方には、最高のパートナーになるでしょう。
おすすめできない人
- 完全な製品を求める人 バグや仕様の不備にストレスを感じる方は、今はまだ購入を控えた方が賢明です。 少なくとも数回の大型アップデートを待つべきでしょう。
- レースゲーム完全初心者 アシストを入れても難易度は高めです。 「マリオカート」やアーケードライクな挙動を求めている場合、本作は苦行になってしまう可能性があります。
- LMDhクラスを極めたい人 現時点ではシステム上の不備により、対等なレースコンディションを作れません。 このクラスが目当ての場合は、修正パッチが来るまで様子見が必要です。
まとめ
今回の実走レビューを通じて、『Project Motor Racing』が持つ特異な立ち位置が見えてきました。
一言で言えば、「パッドプレイヤーのために最適化された、未完の大器」です。
本来であれば、ハンコンでプレイすることが前提となるハードコアな物理エンジンを搭載していながら、それをパッドという入力デバイスで見事に翻訳して見せました。
私自身、長年レースゲームに関わってきましたが、パッドでのフィーリングに関して言えば、本作は過去最高レベルの衝撃を受けました。
「スピンせずに走れる」というレベルを超え、「タイヤを潰してグリップを引き出す」という領域までパッドで踏み込める。
これは革命的と言っても過言ではありません。
もちろん、AIの調整不足やバグなど、ゲームとしての完成度には大きな課題が残されています。
しかし、それらの欠点を補って余りあるほどの「走る楽しさ」がここにはあります。
もしあなたが、車の挙動そのものを楽しむことに喜びを感じるタイプであれば、このゲームは間違いなく買いです。
未完成な部分すらも、今後の伸び代として楽しめる。 そんなロマン溢れる『Project Motor Racing』の世界へ、あなたも足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
サーキットでお会いできるのを楽しみにしています。 それでは、良きレーシングライフを!








