編集デスク ゲーム攻略ライターの桐谷シンジです。今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、待望の新作である『メトロイドプライム4』の購入を検討しつつも、ネット上で囁かれる「賛否両論」の評価に不安を感じているのではないかと思います。「傑作だ」という声と「時代遅れだ」という声が入り混じり、何が真実なのか判断に迷っていることでしょう。
この記事を読み終える頃には、なぜ本作がこれほどまでに評価を二分しているのか、その根本的な原因と、あなたが本作を楽しむことができるプレイヤーなのかどうかの疑問が解決しているはずです。
- メディアの「革新性」重視とユーザーの「体験」重視のズレ
- 「ソルバレイ」エリアに見るオープンワールド構造の是非
- 開発難航による「継ぎ接ぎ感」とクラシックな仕様の弊害
- それでもファンが高く評価する「メトロイドらしさ」の正体
それでは解説していきます。
評価が真っ二つ?「ねじれ現象」の正体とは
今、ゲーム業界で最も注目を集めているトピックの一つが、本作『メトロイドプライム4』における評価の乖離現象です。通常、大作ゲームの評価はメディアレビューとユーザーレビューで大まかな傾向が一致するものですが、本作に関しては極めて珍しい「ねじれ」が生じています。
まず、この現象の全体像を把握するために、現状の評価構造を整理しておきましょう。
メディア評価とユーザー評価の決定的な違い
大手レビューサイトやゲームメディアの批評家たちは、本作に対して比較的厳しい点数をつける傾向にあります。彼らが指摘するのは主に「革新性の欠如」や「古いゲームデザイン」といった点です。一方で、実際にゲームを購入してプレイした一般ユーザーのスコアは高水準で推移しており、「これこそが求めていたメトロイドだ」という称賛の声が多く挙がっています。
| 評価主体 | 主な評価傾向 | 重視しているポイント | 批判の対象 |
|---|---|---|---|
| メディア・批評家 | 辛口・慎重 | 革新性、現代的デザイン、新規性 | 古いUI、単調な作業、既視感のある展開 |
| 一般ユーザー | 好評・熱狂 | 没入感、操作の手触り、シリーズの伝統 | メディアの批判姿勢、オープンワールドへの過度な期待 |
なぜこのような差が生まれるのでしょうか。それは、プロの批評家が「2020年代後半のゲームとして、どのような進化を遂げたか」という産業的な進歩を評価基準に置くのに対し、ファンは「メトロイドプライムとして面白いか」という体験の質を重視しているためです。
「2010年の傑作」という言葉が持つ意味
あるレビュー動画で語られた「もし今が2010年頃だったなら」という言葉は、本作の立ち位置を強烈に示唆しています。これは、「完成度は高いが、今の時代の水準で見ると古臭い」という皮肉と、「かつての傑作の再現としては成功している」という賞賛の両方を含んでいます。
多くのメディアは、ブレスオブザワイルドのような「ジャンルの再定義」を任天堂タイトルに期待します。しかし、本作が選んだのは再定義ではなく、あくまで「『メトロイドプライム』というフォーマットの忠実な再現と拡張」でした。このスタンスの違いが、評価の分断を生む最初の引き金となっています。
メタスコアとユーザースコアの「逆転現象」
通常、メタスコア(批評家スコア)が高く、ユーザースコアが低い場合、それは「高尚だが遊びにくいゲーム」や「ポリコレ等の要素で炎上したゲーム」に見られるパターンです。しかし、本作はその逆です。
批評家が「驚きがない」として点数を下げる一方で、ユーザーは「変な改変がなくて安心した」「操作フィールが最高」として点数を上げています。これは、長期間待たされたファン心理として、「新しい冒険」よりも「実家のような安心感」を求めていた層が多かったことを示唆しています。
争点1:「ソルバレイ」の虚無とオープンワールド構造
評価を二分する最大の要因となっているのが、新エリア「ソルバレイ」と、それに付随するフィールド設計です。ここには本作が抱える「現代化への苦悩」が色濃く反映されています。
砂漠エリア「ソルバレイ」はなぜ批判されるのか
「ソルバレイ」は広大な砂漠エリアであり、本作のビジュアル的な特徴の一つです。しかし、ここが「虚無である」という厳しい指摘が相次いでいます。
密度不足による「作業感」
近年のオープンワールドゲームは、移動そのものが楽しくなるような密度や、ランダムイベント、発見の連続が設計されています。しかし、本作の砂漠は「広さ」に対して「遊び」の密度が低く、単なる移動のための空間になってしまっているという意見があります。特に、メディアレビューではここを「機能不全に近い」とまで表現しており、移動時間がただの作業時間になってしまっている点がマイナス評価に繋がりました。
バイク移動の是非
この砂漠を移動するための「サンドバイク」も議論の的です。
- 肯定派: 「これまでのサムスにはないスピード感が楽しい」「徒歩よりマシ」
- 否定派: 「操作性が悪い」「最高速になるまでが遅い」「小回りが効かない」「そもそもメトロイドに乗り物はいらない」
バイクの挙動が、現代の洗練されたレースゲームやオープンワールドの乗り物に比べて「重い」「古臭い」と感じるプレイヤーが多く、これがストレス要因となっています。
「オープンワールド風」が生んだ誤解と期待外れ
本作は完全なオープンワールドではなく、あくまで「広大なエリアが接続された探索型アクション」です。しかし、プロモーションや序盤の展開で「自由な探索」を匂わせた結果、プレイヤーに「ゼルダのような自由度」を期待させてしまいました。
自由に見えてガチガチのルート制限
「序盤にどこから探索するかは君の自由だよ」というセリフがありながら、実際には特定の装備がないと進めない場所ばかりで、実質的な一本道(レールプレイング)になっています。これはメトロイドヴァニアというジャンルでは当たり前のことですが、現代のオープンワールドの文法で解釈しようとしたプレイヤーにとっては「騙された」「窮屈だ」と感じる要因になりました。
エリア間の分断
また、各エリアがシームレスに繋がっているわけではなく、明確に分断されている点も「時代遅れ」と評される一因です。かつての『メトロイドプライム』初代の「ターロンオーバーワールド」をただ広げただけで、現代的な「世界そのものの繋がり」を感じにくい構造になってしまっています。
他作品との比較で浮き彫りになる課題
任天堂ファンはどうしても『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ゼノブレイド』シリーズという最高峰のオープンワールド体験と比較してしまいます。
- ゼルダ: 見える場所すべてに行ける、物理演算による遊び。
- メトプラ4: 見える場所でも行けない、決められた手順が必要。
また、同じ探索型でも『メトロイド ドレッド』のような2D作品は、移動の快適さとアクションの密度が極めて高かったため、「3Dになった途端にテンポが悪くなった」と感じる層もいます。モノリスソフトのような広大なフィールド構築のノウハウを持つスタジオの協力を得ていれば、あるいはもっと違った評価になったかもしれません。
争点2:ゲームデザインの「古さ」と「伝統」
「古き良き」と取るか、「時代錯誤」と取るか。ゲームシステム細部における評価も真っ二つに割れています。
「グリーンクリスタル」回収という名の作業
本作には「グリーンクリスタル」という収集要素が存在しますが、これがストーリー進行上の足止め(ストッパー)になっているという批判があります。 ゲームの後半で「各地に戻ってアイテムを集めてこい」と指示される展開は、プレイ時間を引き伸ばすための「水増し」と捉えられがちです。
探索か、お使いか
本来、メトロイドの探索は「新しい能力を得て、以前行けなかった場所に行く」というワクワク感が原動力です。しかし、このクリスタル回収に関しては、「行かなければならない」という強制力が強く働いており、自発的な探索の楽しみを削いでしまっています。これを「探索の密度が高い」と好意的に解釈するユーザーもいますが、多くのメディアはこれを「2000年代の悪しき風習」として切り捨てています。
モーフボール変形のアクションプロセス
具体的な操作における不満点として挙げられているのが、モーフボール(球体形態)時の特定のアクションです。 「チャージボムを置く → 解除して人型に戻る → チャージボムを掴む → 投げる」という一連の動作が求められるシーンに対し、「工程が複雑すぎる」「誰得なのか」という声が上がっています。
これは「リアリティ」や「手順の面白さ」を狙ったものかもしれませんが、ボタン一つで快適なアクションが繰り出せる現代のゲームに慣れたプレイヤーにとっては、単なる「煩雑な操作」としか映りません。「基本テクニックのようなノリで出すものではない」という辛辣な意見は、UI/UXデザインの調整不足を示唆しています。
操作フィール:FPSか、FPAか
本作はFPS(一人称視点シューティング)の形式を取っていますが、その操作感は『Call of Duty』や『Apex Legends』のような現代FPSとは異なります。
- 初心者の壁: マウスや一般的なFPS操作に慣れている層からは、「パッド操作のエイムが難しい」「動きが重い」といった不満が出ています。
- シリーズファンの評価: 一方で、旧作ファンからは「シリーズで最高の操作感」「リマスター版よりも遊びやすい」と絶賛されています。
メトロイドプライムはあくまで「ファースト・パーソン・アドベンチャー(FPA)」であり、敵を撃ち倒す爽快感よりも、環境をスキャンし、世界を把握することに重きを置いています。このジャンルの定義の違いを理解しているかどうかで、操作性の評価が180度変わります。
争点3:開発難航の影響と技術的課題
本作の評価を語る上で避けて通れないのが、その特異な開発経緯です。発表から発売まで約8年という歳月は、作品にどのような影を落としたのでしょうか。
「作り直し」が招いたチグハグさ
本作は一度開発が発表された後、クオリティの問題で白紙に戻され、レトロスタジオによって再開発(リブート)された経緯があります。 「良いところも悪いところも昔のまま」という評価は、オリジナルの『プライム1』を再現することにリソースの多くが割かれ、新しいアイデアや現代的な最適化に手が回らなかった可能性を示唆しています。
継ぎ接ぎの痕跡
砂漠エリアの存在やバイク要素は、作り直し前の企画の名残である可能性があります。「せっかく作ったアセットだから残そう」という判断があったとすれば、全体的なゲームフローの中でそこだけ浮いてしまっている(チグハグである)理由も説明がつきます。ユーザーが感じる「特貫工事感」は、この開発の混乱が製品版に滲み出てしまった結果と言えるでしょう。
グラフィック品質の是非
「PS3初期レベルのクソグラ」という厳しい声もあれば、「Switchでこれなら十分」という擁護もあります。
ハードウェアの限界とアートスタイル
7〜8年前に企画されたゲームがベースになっていること、そしてNintendo Switchというハードウェアの性能限界により、フォトリアルな表現を目指した本作は、他機種のAAAタイトル(例:Haloシリーズなど)と比較して見劣りしてしまっています。 特に、解像度やテクスチャの粗さは、大画面でプレイするユーザーほど気になりやすいポイントです。しかし、メトロイド特有の「バイザー越しの視界」や「エイリアンの粘液感」といったアートディレクションは健在で、雰囲気を楽しむ分には十分という声も根強くあります。
ストーリー演出の既視感
「先に行け」「無事だったのか」といった展開に対し、「手垢にまみれたシナリオ」という指摘があります。 メトロイドシリーズは本来、言葉よりも環境ストーリーテリング(背景や状況で物語を語る)を得意としてきました。しかし、本作ではキャラクター同士の会話や演出を強化しようとした結果、かえって陳腐なドラマになってしまったという皮肉な結果を生んでいます。
ユーザーが支持する理由:没入感と手触り
ここまで批判的な側面を見てきましたが、それでもなお、多くのユーザーが本作を「傑作」と呼び、メタスコア以上の高評価を与えているのはなぜでしょうか。
「あの頃のメトロイド」が帰ってきた感動
ファンにとって最も重要だったのは、「メトロイドプライム」の空気が損なわれていないことでした。 孤独な惑星探索、スキャンバイザーで情報を集める知的な興奮、徐々に能力を取り戻して行動範囲が広がるカタルシス。これらの中核部分は、本作でも確実に継承されています。「革新性はない」という批判は、裏を返せば「変な改変がない」という安心感でもあります。
探索密度と「孤独」の楽しみ
メディアが「虚無」と呼んだ空間も、ファンにとっては「孤独感の演出」として機能しています。 BGM、環境音、バイザーへの映り込みなど、没入感を高める演出はシリーズ屈指です。戦闘だけでなく、ただそこにある遺跡を眺め、生態系を観察するという「FPA」としての楽しみ方は、本作でも十分に味わうことができます。
『プライム1』リマスターとの比較
直近で発売された『メトロイドプライム リマスタード』と比較しても、本作の方が面白いという意見は少なくありません。
- アクションの進化: 古い操作体系を現代風にアレンジし、遊びやすくなっている。
- ボリューム: 賛否はあるものの、ボリューム自体は過去作を凌駕している。
「思い出補正」を超えて、最新作としての楽しさを提供できている点は、ユーザーレビューの高さが証明しています。
まとめ:あなたは『メトプラ4』を買うべきか?
最後に、これまでの議論を整理し、あなたがこのゲームを手に取るべきかを判断する指針を提示します。
本作が「刺さる」人
- 『メトロイドプライム1』が人生のベストゲームである人
- あの独特の浮遊感、孤独感、探索の楽しさは健在です。
- 最新の技術よりも、手触りや雰囲気を重視する人
- グラフィックの最先端さよりも、世界観への没入を求めるなら満足できます。
- 自分のペースでじっくり地図を埋めるのが好きな人
- 効率よりも、行ったり来たりする過程そのものを楽しめる人に向いています。
本作が「合わない」かもしれない人
- 『ゼルダの伝説 BotW/TotK』のような自由度を期待している人
- 自由な攻略順序や、物理演算を使った謎解きはありません。
- 最新のFPS(CoD、Apexなど)の操作感・爽快感を求めている人
- あくまでアドベンチャーゲームであり、エイムやキルを楽しむゲームではありません。
- 「作業」や「お使い」に強いストレスを感じる人
- 移動やアイテム回収に時間をかけることを「無駄」と感じるなら、苦痛になる可能性があります。
総評:不器用だが愛すべき「遅れてきた名作」
『メトロイドプライム4』は、2010年代の傑作が、タイムマシンに乗って2020年代にやってきたような作品です。 メディアが指摘する「古さ」は事実であり、革新性を求める視点からは物足りなさが残るでしょう。しかし、その「古さ」の中には、失われつつある「硬派なアクションアドベンチャーの良心」が詰まっています。
開発の混乱、時代の変化、ハードの制約。様々な逆風を受けながらも、なんとかファンの期待に応えようと着地させた執念の作品。それが、ユーザーの高い評価に繋がっているのです。完璧なゲームではありませんが、ハマる人には一生の思い出になる、そんな力を持った一本であることは間違いありません。
もしあなたが、流行りのオープンワールドに少し疲れを感じているなら、この不器用でクラシックな惑星探索の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。そこには、忘れかけていたゲーム本来の「探索する喜び」が待っているはずです。
以上、編集デスクの桐谷シンジがお届けしました。






