編集デスク ゲーム攻略ライターの桐谷シンジです。 今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、話題の新作レースシム「Project Motor Racing」の実際の評判が気になっていると思います。 発売前から「Project CARSの精神的続編」として極めて高い期待を集めていた本作。 しかし、いざ蓋を開けてみるとSNSやレビューサイトでは厳しい批判の声が飛び交っているのが現状です。 なぜこれほどまでに期待と現実にギャップが生まれてしまったのか、購入を迷っている方にとっては不安な点が多いでしょう。
この記事を読み終える頃には、Project Motor Racingが抱える問題点の全容と、それでも遊ぶ価値があるのかという疑問が解決しているはずです。
- 時代遅れと言わざるを得ないグラフィック品質
- 2025年の基準に達していないリプレイ機能の不備
- シミュレーターかアーケードか中途半端な挙動
- 期待外れとなってしまった新エンジンの完成度
それでは解説していきます。
Project Motor Racingとは?期待された背景と現状
まずは、なぜ本作がこれほどまでに注目され、そして現在批判の的となっているのか、その背景を整理しておきましょう。 レースゲームファンにとって、開発元の経緯は非常に重要な要素です。
Project CARSの生みの親による再起
本作を開発したのは「Straight4 Studios」。 このスタジオを率いているのは、かつてレースシム界に旋風を巻き起こした「Project CARS」シリーズの生みの親、イアン・ベル氏です。 彼は「Slightly Mad Studios」の創設者であり、リアルな挙動と美麗なグラフィックで『グランツーリスモ』や『Forza』に匹敵する評価を得た人物です。
しかし、Project CARSシリーズは波乱の運命を辿りました。 2019年にCodemastersに買収され、さらにその後Electronic Arts(EA)の傘下に入ることになります。 そして2022年、開発中と噂されていた『Project CARS 4』のキャンセルと共に、シリーズは事実上の終了を迎えました。
多くのファンが失望する中、イアン・ベル氏は新たなスタジオ「Straight4 Studios」を立ち上げ、かつての仲間たちを再集結させました。 そこで発表されたのが、本作『Project Motor Racing』です。 つまり、本作は「失われたProject CARS 4」の精神を受け継ぐ作品として、全世界のレースシムファンから2025年最大の期待作として待望されていたのです。
Farming Simulatorのエンジンを採用した挑戦
本作の技術的なトピックとして最も話題になったのが、ゲームエンジンの採用です。 通常、レースゲームにはUnreal Engineや独自の物理エンジンが使われます。 しかし、本作はなんと農業シミュレーションゲーム『Farming Simulator』で使用されている「Giants Engine」をベースに開発されました。
「なぜ農業ゲームのエンジンを?」と疑問に思う方も多いでしょう。 開発陣は、このエンジンが持つ物理演算能力に着目しました。 720Hzという高周波数での演算能力、そして流体力学を用いた空気抵抗や燃焼のシミュレーション。 これらを活用することで、かつてないリアルな挙動と環境変化を実現できると豪語していました。
しかし、この野心的な挑戦こそが、結果として本作の評価を大きく分ける要因となってしまったのです。 次項からは、実際にプレイして浮き彫りになった具体的な問題点を徹底的に解説していきます。
批判殺到の理由① 時代錯誤なグラフィック品質
本作が最も批判されているポイント、それは間違いなく「グラフィック」です。 2025年という時代において、レースゲームのグラフィックは実写と見分けがつかないレベルにまで進化しています。 競合となる『Assetto Corsa Evo』や既存の『Gran Turismo 7』が高品質なビジュアルを提供する中、本作のクオリティは厳しい評価を下さざるを得ません。
10年前のゲームに見える質感
メニュー画面で表示される車両モデルは、それなりに美しく描画されています。 しかし、いざコースに出てレースを開始すると、その印象は一変します。 全体的に画面がのっぺりとしており、最新のライティング技術が活かされていないように感じられます。
路面のアスファルトの質感、コース脇の芝生や木々の描写、そして観客のモデリング。 これらが一世代、あるいは二世代前のコンソール機(PS3やPS4初期)のゲームを見ているような感覚に陥ります。 特に、UE5(Unreal Engine 5)などの最新エンジンを採用したタイトルと比較すると、その差は歴然です。
推奨スペックとして「RTX 3070」が挙げられており、決して低い要求スペックではありません。 レイトレーシング機能も実装されていますが、それをオンにしても劇的な画質の向上は感じられず、むしろ動作が重くなるだけの印象を受けます。 「2025年の新作」として購入したユーザーが、起動直後に落胆するのも無理はありません。
没入感を削ぐ環境描写の甘さ
レースシムにおいて、没入感を高めるためには「空気感」の表現が不可欠です。 本作には「LiveTrack」と呼ばれる、路面状況がリアルタイムに変化するシステムが搭載されています。 雨が降れば水たまりができ、太陽が出ればそれが蒸発して乾いていく。 このコンセプト自体は素晴らしいものです。
しかし、グラフィックの表現力が追いついていないため、その変化が視覚的に伝わりにくいのが現状です。 雨天時の水しぶきの表現や、濡れた路面の反射表現が乏しく、平面的に見えてしまいます。 また、高速走行時のスピード感を演出するブラー効果や、Gがかかった際のカメラワーク(視点の揺れ)といった演出も不足しています。 これにより、「必死にマシンをねじ伏せている」というドライビングの臨場感が薄れてしまっているのです。
批判殺到の理由② 壊滅的なリプレイ機能
レースシムファンにとって、自分の走りを後から鑑賞する「リプレイ」は、レース本番と同じくらい重要な要素です。 しかし、本作のリプレイ機能は「壊滅的」と言って差し支えない状態にあります。
許されざる「30fps固定」仕様
驚くべきことに、どのプラットフォーム、どれだけ高性能なPCを使用しても、リプレイのフレームレートが「30fps」に固定されています。 レース中は60fpsや120fpsで滑らかに動いていたとしても、リプレイになった瞬間にカクカクとした映像を見せられることになります。
2025年のレースゲームにおいて、リプレイが30fpsというのは致命的です。 高速で流れる景色や、サスペンションの細かな動きを確認したくても、コマ送りのような映像では何も伝わりません。 特に、eスポーツや動画配信が盛んな現代において、リプレイ映像の美しさはゲームの宣伝塔とも言える要素です。 ここがお粗末な作りになっていることは、開発側のリソース不足か、あるいはエンジンの限界を露呈していると言えるでしょう。
画質の低下と演出不足
フレームレートだけでなく、リプレイ中の画質そのものも低下します。 テクスチャの解像度が落ちたように見えたり、影の描写が雑になったりする現象が確認されています。 本来、リプレイモードは演算リソースをグラフィックに全振りして、実写のような映像を楽しむ時間であるはずです。
また、リプレイカメラのアングルも単調です。 テレビ中継のような迫力あるカメラワーク(TVカメラ視点)の切り替えが不自然だったり、車両に寄りすぎて全体像が見えなかったりと、調整不足が否めません。 「自分のカッコいい走りを見て酔いしれたい」というユーザーの欲求は、本作では満たされない可能性が高いでしょう。
批判殺到の理由③ シムかアーケードか?どっちつかずの挙動
レースゲームの命とも言える「車の挙動(フィジックス)」についても、評価は真っ二つに分かれています。 前述した「Giants Engine」による720Hzの物理演算は、果たしてどのようなドライビングフィールを生み出したのでしょうか。
「ガチシム」を期待すると肩透かし
開発者のイアン・ベル氏は、本作を「究極のシミュレーター」のように宣伝していました。 そのため、プレイヤーは『iRacing』や『rFactor 2』のような、タイヤのグリップ限界をギリギリで探るようなシビアな挙動を期待していました。 しかし、実際にプレイしてみると、その挙動は意外にも「マイルド」です。
ブレーキを残しながらコーナーに進入する際の挙動や、荷重移動の感覚が希薄で、どこかゲーム的な補正が働いているように感じられます。 特に『Le Mans Ultimate』のような硬派なシムと比較すると、ブレーキングの難易度はかなり低く設定されています。 これを「遊びやすい」と捉えるか、「リアリティがない」と捉えるかで評価は変わりますが、事前の宣伝文句から「ガチシム」を期待していた層にとっては、期待外れと言わざるを得ません。
低速域での不自然な挙動
特に気になったのが、低速コーナーや発進時の挙動です。 スピードが乗っている時はそれなりにグリップ感があるのですが、低速になると急に車が軽く感じたり、タイヤが路面を捉えている感覚が希薄になったりします。 ステアリングを切った際の反応に独特の「癖」があり、思った通りのラインをトレースできない場面が散見されます。
これは、ベースとなっている物理エンジンが、本来レースゲーム用ではないことに起因している可能性があります。 農業機械のような重量物のシミュレーションには長けていても、数百キロで疾走するレーシングカーの繊細なタイヤ物理を再現するには、まだ調整が必要なのかもしれません。
カテゴリーごとの作り込み不足
本作は多種多様なカテゴリーの車を収録しているのが売りですが、それゆえに「全ての車種の挙動を詰め切れていない」という印象を受けます。 最新のハイパーカーと、70年代のグループCカーでは、本来全く異なる挙動特性を持っているはずです。 しかし、本作ではどの車に乗っても似たようなハンドリング特性を感じることがあります。
例えば、ダウンフォースが強烈なフォーミュラカーと、市販車ベースのGTカーの違いが、FFB(フォースフィードバック)を通して明確に伝わってこないのです。 「何にでも乗れる」というメリットの裏で、「どれも中途半端」というデメリットが生じてしまっています。
批判殺到の理由④ AIとバグによるストレス
シングルプレイを楽しむユーザーにとって、対戦相手となるAI(CPU)の出来は死活問題です。 しかし、現段階でのAIの挙動は、レースを成立させるレベルに達していないという厳しい声が上がっています。
特攻してくる「マナーの悪い」AI
本作のAIは非常にアグレッシブです。 というよりも、プレイヤーの存在を無視しているかのような動きを見せます。 コーナーへの飛び込みで無理やりインを刺してきたり、ブレーキングポイントでありえない速度で突っ込んできたりして、平気でプレイヤーに追突します。
レースシムにおいて、クリーンなバトルができるかどうかは非常に重要です。 しかし、本作のAIはラインを譲るということを知らず、まるでデストラクションダービー(破壊レース)のような展開になりがちです。 キャリアモードなどで真剣に順位を争っている時に、理不尽なAIの魚雷アタックでレースを台無しにされるストレスは計り知れません。
進行不能やクラッシュなどのバグ
発売直後のゲームには付き物とはいえ、本作はバグの多さも目立ちます。 メニュー画面でのフリーズ、ピットイン時の挙動不審、サウンドの消失など、大小様々なバグが報告されています。 特にPC版では、特定のハードウェア構成でクラッシュが頻発するという報告もあり、最適化不足は明らかです。 返金騒動に発展しているのも、こうした「商品としての未完成さ」が大きな要因となっています。
それでも評価できる点|唯一の希望
ここまで厳しい批判を並べてきましたが、全ての要素が悪いわけではありません。 Project Motor Racingには、他のゲームにはない独自の魅力や、今後の可能性を感じさせる要素も確かに存在します。
マニア垂涎の収録車種ラインナップ
本作の最大の強みは、その「変態的」とも言える車種ラインナップです。 「Motor Racing」の名に恥じず、70種類以上のレーシングカーが初期から収録されています。 特筆すべきは、他のメジャーなレースゲームではまず採用されないような、マイナーかつ歴史的な名車が含まれていることです。
- 往年のグループCカー
- グループ5(シルエットフォーミュラ)
- LMP1、GT1、GT2などの耐久レース車両
- トヨタ、日産、ホンダ、マツダなどの往年の日本車
これらは、オールドファンにとっては涙が出るほど嬉しいラインナップです。 最新のスーパーカーばかりを追いかけるのではなく、モータースポーツの歴史を彩った「伝説のマシン」を操れる点は、本作の唯一無二の価値と言えるでしょう。
可能性を感じるフォースフィードバック
挙動自体には賛否がありますが、ハンドルコントローラーから伝わる「フォースフィードバック(FFB)」の情報量は悪くありません。 特に、路面のうねりや縁石を乗り越えた時の振動、タイヤが滑り出した瞬間の感触などは、720Hzエンジンの恩恵を感じさせます。 「ガツン」とくる衝撃ではなく、タイヤのゴムが路面を噛むような微細な振動が伝わってくる瞬間があり、ここは評価できるポイントです。
MOD対応による将来性
そして、本作の最大の希望は「MOD(改造データ)」への対応です。 PC版に限られますが、本作はリリースと同時にMODの導入を公式にサポートしています。 これは、あの大ヒット作『Assetto Corsa』と同じアプローチです。
現状のグラフィックやサウンドに不満があっても、有志のユーザー(モッダー)たちが高品質な車両やコース、あるいはグラフィック改善パッチを作成してくれる可能性があります。 開発側もそれを推奨しており、コミュニティの力でゲームが進化していく土壌が整っています。 もし、優秀なMOD職人が本作に集まれば、数年後には全く別の神ゲーに生まれ変わっている可能性もゼロではありません。
ライバル作品との比較
本作の立ち位置をより明確にするために、競合となる主要なレースシムと比較してみましょう。
| 項目 | Project Motor Racing | Gran Turismo 7 | Assetto Corsa Competizione |
|---|---|---|---|
| グラフィック | × (一世代前の水準) | ◎ (極めて美麗・フォトリアル) | ◯ (Unreal Engine 4による美麗さ) |
| 挙動 (リアルさ) | △ (シムケード寄り・癖あり) | ◯ (万人受けするリアルさ) | ◎ (硬派なガチシム) |
| 車種の多様性 | ◎ (歴史的なレーシングカー多数) | ◎ (市販車からレースカーまで膨大) | △ (GT3/GT4車両に特化) |
| AIの質 | × (攻撃的・調整不足) | ◯ (アップデートで改善傾向) | ◯ (レースらしい駆け引きが可能) |
| MOD対応 | ◎ (公式サポートあり) | × (不可) | × (不可・初代ACは可) |
この表を見ると、Project Motor Racingが「素材(車種やMOD対応)」は良いものの、「調理(グラフィックやAI)」で失敗していることがよく分かります。
まとめ
編集デスク ゲーム攻略ライターの桐谷シンジです。 ここまでProject Motor Racingの現状について解説してきました。
結論として、現時点での本作は「未完成の大器」であり、一般のゲーマーには手放しでおすすめできる状態ではありません。 特に、美麗なグラフィックや完璧なシミュレーション体験を求めて購入すると、大きな失望を味わうことになるでしょう。
しかし、Project CARSの遺伝子を感じさせるマニアックな車種選定や、MODによる拡張性など、光る部分があるのも事実です。 開発チームが批判を真摯に受け止め、継続的なアップデートでグラフィックやAIを改善していけば、かつてのProject CARSのように愛される作品になる可能性は残されています。
- グラフィックとリプレイ機能は2025年の水準に達していない
- 挙動は期待された「ガチシム」ではなく、調整不足な面が目立つ
- AIの挙動やバグなど、製品としての完成度が低い
- 往年の名車ラインナップとMOD対応に将来性を感じるなら「買い」
もしあなたが、「多少の粗さは我慢できるから、懐かしのグループCカーで走りたい」「MODを入れて自分好みに改造していきたい」という情熱的なレースゲームファンであれば、応援する意味で購入してみるのも一つの選択肢です。 そうでない場合は、数ヶ月後のアップデート状況を見てから判断するのが賢明でしょう。
今後のStraight4 Studiosの対応と、本作の進化に期待しましょう。








