ゲーム評論家の桐谷シンジです。 今回も多く寄せられてる質問にお答えしていきます。
この記事を読んでいる方は、HD-2D版『ドラゴンクエストI&II』、特に『ドラクエ2』に関して発売前にあった公式のアナウンス、「あっと驚く展開」とは具体的に何だったのか、気になっていると思います。 中には「実際にプレイしたが、正直想定の範囲内で、そこまで驚く要素はなかった」と感じている方もいらっしゃるようですね。
この記事を読み終える頃には、その「あっと驚く展開」の正体と、なぜ公式が「ネタバレ自粛」を呼びかけたのか、その意図についての疑問が解決しているはずです。
- 公式アナウンス「あっと驚く展開」の背景
- プレイヤーが「想定内」と感じた理由の分析
- 考察:「驚き」の正体は「4人目の仲間」と「真のエンディング」
- HD-2D版の真価とロト三部作の「完結」
それでは解説していきます。
公式アナウンス「あっと驚く展開」とプレイヤーの「期待」
まずは、今回のリメイクにおける公式のアナウンスと、それを受け取った我々プレイヤーの「期待」について整理してみましょう。
発売前「ネタバレ自粛」アナウンスの振り返り
HD-2D版『ドラゴンクエストI&II』の発売が近づくにつれ、公式からは「『ドラクエ2』には、あっと驚く展開が用意されているため、クリア後のネタバレは控えてほしい」という旨のアナウンスが発信されました。 これは、ゲーム評論家である私も含め、多くの往年のファンにとって大きな期待を抱かせるものでした。
なにせ、ベースとなっているのは1987年に発売されたファミリーコンピュータ版『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』です。 すでにストーリーを知り尽くしているプレイヤーに対して、あえて「驚く展開」と予告するからには、相当な改変や追加要素が盛り込まれているのだと予想されました。
プレイヤーが「想定の範囲内」と感じたのはなぜか
しかし、いざ発売されてみると、読者の方のように「あっと驚くというほどではなかった」「想定の範囲内だ」という声が一定数上がっているのも事実です。 この「期待と現実のギャップ」はどこから生まれたのでしょうか。
一つの要因として、最大の追加要素であった「サマルトリアの王女(サシャ)」の仲間入りが、発売前のプロモーション段階で(堀井雄二氏のX(旧Twitter)での言及も含め)比較的早い段階で公表されてしまった点が挙げられます。 オリジナル版を知るプレイヤーにとって「仲間が3人から4人に増える」こと自体は大きな驚きですが、それが「公式からのお願い」の答えだとすると、少々肩透かしに感じるかもしれません。
また、海外のレビューでも「メタスコア84点」と高評価である一方、「オリジナルのテンポ感を保ちすぎて新鮮味が薄い」という指摘も見られます。 オリジナル版の骨格を尊重したリメイクである以上、物語の根幹を覆すような、例えば「ハーゴンが実は味方だった」といった類のドンデン返しがなかったことも、「想定の範囲内」と感じさせた理由でしょう。
リメイクにおける「驚き」のハードル
現代のゲーム、特にストーリーを重視したRPGでは、「プレイヤーの予想を裏切る衝撃的な展開」が数多く生み出されています。 そうした作品に慣れたプレイヤーにとって、数十年前の作品のリメイクにおける「驚き」のハードルは、我々が思う以上に高くなっているのかもしれません。
公式の言う「驚き」と、プレイヤーが期待した「驚き」のベクトルが異なっていた可能性があります。 では、公式が本当に伝えたかった「驚き」とは、一体何だったのでしょうか。
オリジナル版『ドラクエ2』が持つ文脈
考察に入る前に、オリジナル版『ドラクエ2』が当時のプレイヤーに与えた「衝撃」を振り返る必要があります。 前作『ドラクエ1』は勇者とローラ姫の1対1の冒険でしたが、『ドラクエ2』ではシリーズ初の「パーティシステム」が導入されました。 ローレシアの王子が、サマルトリアの王子、ムーンブルクの王女という「仲間」を見つけていく過程は、それ自体が感動的な体験でした。
一方で、『ドラクエ2』は「理不尽な難易度」でも知られています。 特に「ロンダルキアへの洞窟」の鬼畜的な難易度と、そこを抜けた先の絶望的な強さの敵たちは、当時の子供たちにトラウマ級の「衝撃」を与えました。 今回のリメイクは、この『ドラクエ2』が持つ「仲間探しの感動」と「理不尽な難易度」という文脈をどう再構築したのでしょうか。
徹底考察:公式が伝えたかった「あっと驚く展開」の正体
ここからが本題です。 私が本作をやり込んだ上で導き出した結論は、公式の言う「あっと驚く展開」とは、単一のイベントを指すのではなく、**「オリジナル版の物語の隙間を埋め、ロト三部作の完結編として物語を『真に』終わらせるための、重層的な追加要素の総体」**であった、というものです。 そして、その核心には「サシャの仲間入り」と、クリア後に用意された「真のエンディング」があります。
考察①:最大の追加要素「サマルトリアの王女」の仲間入り
まず、最も分かりやすい「驚き」は、やはり4人目の仲間となるサマルトリアの王女「サシャ」の存在です。
オリジナル版「サマルトリア王子問題」への公式のアンサー
オリジナル版のサマルトリアの王子は、良く言えば人間らしい、悪く言えば頼りない仲間でした。 病弱で離脱することが多く、ステータスも中途半端。 挙句の果てに「いやー さがしましたよ」と、なぜかハーゴンの神殿で迷子になっている(これはSFC版リメイクで修正されましたが)など、ネタキャラとしての側面も強く持っていました。
今回のリメイクでは、彼が病気で離脱するイベント(情報ソース①で詳細に描写されています)が深掘りされます。 そして、その彼を救うために同行するのが、妹のサシャです。 彼女は「私も勇者の死を継ぐ者」「お兄ちゃんが倒れないように私が守ってあげる」と宣言し、兄の代わりに(そして兄の復帰後も)パーティに正式加入します。
これは、オリジナル版の「サマルトリア王子問題」に対する、リメイク版からの明確な「答え」です。 単に仲間を一人増やすだけでなく、オリジナル版でプレイヤーが抱いた「カイン、大丈夫か?」という不安を、妹サシャが「物語的にも」「システム的にも」補完する役割を担っているのです。
なぜ「4人パーティ」なのか
サシャは体術と魔法を得意とするキャラクターとして設計されており、パーティの戦術に大きな幅をもたらします。 これにより、オリジナル版の3人パーティとは根本的にゲームバランスが変化しています。
情報ソース①のイベントシーンでの「おてんば」な言動や、兄を思う優しさ、そして「勇者の血を継ぐ者」としての決意が描かれることで、サマルトリア王家の解像度が格段に上がりました。 この「物語の深掘り」こそが、公式の仕掛けた「驚き」の第一弾だったと私は考えています。
考察②:クリア後に解放される「真の追加ストーリー」
しかし、読者の方が「想定内」と感じたのであれば、おそらく「驚き」の正体はサシャの加入だけではありません。 公式が「クリア後のネタバレ」と釘を刺した本当の理由は、ハーゴンとシドーを倒した**「その後」**にあります。
情報ソース①でも「クリア後に用意されてるみたいですが、あえて触れない」と言及されていた部分です。
海底に眠る「世界の思い出」とロト三部作の真実
本作では、オリジナル版にはなかった広大な「海底」マップが追加されています。 そして、クリア後(あるいはクリア前から収集可能ですが)、世界各地の海底に沈んだ「世界の思い出」を集めるという新たな目的が提示されます。
この「世界の思い出」を収集していくと、アレフガルドの知られざる歴史や、ロト三部作(=『3』→『1』→『2』)の繋がり、そして『ドラクエ1』の竜王がなぜ闇に堕ちたのか、といった物語の裏側が明らかになっていきます。 これは、単なるフレーバーテキストではなく、『ドラクエ2』をロト三部作の「完結編」として位置づけ直すための、極めて重要な追加シナリオです。
追加ダンジョン「無限の回廊」の存在
そして、「7つの思い出」を集めると、クリア後の追加ダンジョン「ドワーフの洞窟」そして「無限の回廊」への道が開かれます。 「無限の回廊」は25階層にも及ぶ高難易度ダンジョンであり、過去の『ドラクエ』シリーズのマップが登場するなど、ファンサービスも盛り込まれたやり込み要素の集大成です。
このダンジョンを攻略することで、最強の「ロトのつるぎ」を入手でき、ロト装備一式が揃うことになります。
考察③:読者が求める「2回目のエンディング」=「真エンディング」と「真ラスボス」
ここが最大の核心です。 読者の方がおっしゃる「2回目のエンディング以降にあっと驚く展開」とは、まさにこの**「真のエンディング」**の存在を指しています。
最強装備「ロトの竜剣」と「真ラスボス」の存在
通常のエンディング(ハーゴン・シドー討伐)を迎えた後、「無限の回廊」をクリアし、ロト装備を揃えます。 さらに、竜王の城にいる「竜王のひ孫」と戦い、勝利することで、真の最強装備である「ロトの竜剣」と「ロトの聖なる盾」が入手できます。
そして、この「真のロト装備」を携えて再びラスボス(シドー)のもとへ向かうと、通常とは異なる展開が発生。 ロト三部作の「真の完結」を脅かす**「真ラスボス」**が登場するのです。
これぞ「あっと驚く展開」の正体
この「真ラスボス」を倒すことで、通常のエンディングとは全く異なる「真のエンディング」を見ることができます。 これこそが、公式が「ネタバレを控えてほしい」と切に願った、「あっと驚く展開」の正体でしょう。
オリジナル版のエンディングは、平和を取り戻した3人がそれぞれの国へ帰っていくという、ある種の「あっさり」としたものでした。 しかし、今回のリメイクでは、「世界の思い出」でロトの歴史を紐解き、「無限の回廊」でロトの武具を完成させ、そして「真ラスボス」を討伐することで、ロトの血脈の物語に本当の意味での終止符を打つ。
この一連の流れこそが、『ドラクエ2』リメイクにおける最大の「驚き」であり、オリジナル版を知るプレイヤーほど深く感動できる仕掛けなのです。 読者の方が「想定の範囲内」と感じたのであれば、それはまだ「真のエンディング」に到達していないからかもしれません。
「あっと驚く展開」は「仕掛け」の総体だった
つまり、公式の言う「驚き」とは、単一のドンデン返しではありませんでした。
単一の衝撃ではなく「物語の深掘り」こそが真意
- 仲間の驚き: サシャの加入によるパーティ構成と物語の変化。
- 歴史の驚き: 「世界の思い出」によるロト三部作の裏側の解明。
- 完結の驚き: 「真のエンディング」と「真ラスボス」による、ハーゴン・シドー討伐後の「本当の結末」。
これらの「仕掛け」が重層的に配置されており、そのすべてを体験して初めて、公式が意図した「あっと驚く展開」の全貌が見えるようになっています。
『ドラクエ1』リメイクとの連動
本作は『Ⅰ&Ⅱ』のセットです。 『ドラクエ1』リメイク側でも、「精霊ルビス」を巡る新シナリオや、オリジナル版では描かれなかったムーンブルク襲撃シーンのドラマチックな強化(開発者が「原作を知っている方ほどびっくりする」と語っています)など、ロト三部作の繋がりを意識した追加がなされています。 『ドラクエ1』の追加要素が、『ドラクエ2』の「世界の思い出」で語られる歴史とリンクし、物語全体に厚みを持たせているのです。
「驚き」だけではない HD-2D版『ドラクエ2』の真価とやり込み要素
読者の方は『ドラクエ2』リメイクに興味をお持ちとのことなので、「あっと驚く展開」以外にも、本作の魅力と、クリア後も続く膨大なやり込み要素について解説します。 これらもまた、HD-2D版の「真価」と言える部分です。
HD-2Dで生まれ変わったグラフィックと演出
まず特筆すべきは、HD-2Dによる圧倒的なグラフィックの進化です。 ドット絵の「味」を残しつつ、光や影、水の表現が加わり、オリジナル版を知る者ほど「あのマップがこんなに美しくなるのか」と感動できます。 特に『ドラクエ2』の広大な世界観(当時では最大級のマップでした)とHD-2Dの相性は抜群です。
現代的に遊びやすくなった快適なシステム
オリジナル版の「理不尽さ」は、現代の基準に合わせて大幅に改善されています。 オートセーブ、戦闘スピードの変更、ルーラの移動先の追加、ミニマップの表示などはもちろん、今作独自の「巻物」システムが秀逸です。
「巻物」を使うことで、キャラクターが本来覚えない呪文や「とくぎ」(特技)を習得させることができます。 これにより、サマルトリアの王子に攻撃特技を覚えさせたり、ムーンブルクの王女に補助呪文を充実させたりと、育成の幅が格段に広がりました。 これは、オリジナル版の窮屈だった戦略性を大きく変える良質な追加要素です。
オリジナル版の悪夢「ロンダルキアへの洞窟」はどうなったか
ご安心ください。 あの悪夢のダンジョン「ロンダルキアへの洞窟」ですが、開発者対談によれば「マップのルート自体は変わっていない」とのことです。 しかし、上記のシステム改善(特にオートセーブや中断セーブ)や、特技・巻物によるパーティ強化、そしてバランス調整により、オリジナル版のような「理不尽な死」は大幅に軽減されています。 もちろん、歯ごたえは健在ですが、あくまで「攻略可能な高難易度ダンジョン」として、健全な調整が施されています。
クリア後の膨大なやり込み要素
情報ソース①でも触れられていた通り、本作はクリア後からが本番とも言えるやり込みが待っています。
海底ダンジョン「ヌシのすみか」「幽霊船」
「世界の思い出」集めと並行し、広大な海底を探索できます。 そこには「ヌシのすみか」や、ランダムで出現する「幽霊船」といった新たなダンジョンが追加されています。 これらはクリア後の腕試しとして、また貴重なアイテムの入手場所として機能します。
謎の塔と「しんりゅう」への挑戦
「真のエンディング」ルートとは別に、クリア後の世界には「謎の塔」が出現します。 その最上階で待ち受けるのは、シリーズおなじみの裏ボス「しんりゅう」です。 「真ラスボス」とは異なる強さを持つ彼に挑むのも、やり込みプレイヤーとしての大きな目標となるでしょう。
小さなメダル収集と「紋章」システム
おなじみの「小さなメダル」集めも健在です。 さらに、バトル中に様々な効果を発揮する「紋章」という収集要素も追加されており、これらを集めてパーティを強化していく楽しみもあります。
まとめ
HD-2D版『ドラゴンクエストII』の「あっと驚く展開」とは、単なる一つのイベントではなく、オリジナル版の物語を「真に完結」させるための、極めて丁寧かつ重厚な追加要素の総体であったと結論付けます。
- サマルトリアの王女(サシャ)の加入による、物語とゲームバランスの再構築。
- **「世界の思い出」**収集による、ロト三部作の物語の深掘り。
- **「無限の回廊」**という高難易度追加ダンジョン。
- そして、それらを経てたどり着く**「真ラスボス」と「真のエンディング」**。
公式が「ネタバレを控えて」とアナウンスしたのは、この「ハーゴン・シドーを倒した後も、まだ物語は終わらない」という、ロトの血脈の物語の「本当の結末」を、プレイヤー自身の目で確かめてほしかったからに違いありません。
読者の方が「想定の範囲内」と感じたのは、まだこのリメイクが用意した「本当の結末」に触れていないからかもしれません。 ぜひ、クリア後も冒険を続け、海底に眠る「思い出」を集め、ロトの物語の真のフィナーレを目撃されることを強くお勧めします。






